無量の家

25年前に若い単身者の為に建てられた平家の増築の計画である。
その後、お施主様はご結婚され、お子様にも恵まれ、
当初の計画ではさすがに住みづらくなりました。
今回のプランは、新たに既存建物との間に中廊下を干渉空間として設けて、
 子供部屋とフリースペースを南面させて配置する計画となっています。
外観は、木部が表しとなった既存の建物との違和感がないように意識しました。
既存建物の屋根の軒下からの片流れの屋根は、
増築部分の雨仕舞に充分配慮され、室内の天井にもそのかたちを活かしています。
室内は、木の床、木の天井、シンプルな白い壁に囲まれた柔らかい落ち着いた空間となっていて、
中廊下、各部屋とも少しづつ天井の高さを変化させることで、
既存建物との心理的なつながりが緩やかになり、寸法による居心地を感じられる工夫が施されています。
また、耐震性、温熱環境にも充分配慮された安全で快適な建物となりました。
 

西側の外観、右側の片流れの屋根が増築部分。玄関の位置が変更され、玄関ポーチは木部表しの表現となっている。

南側の外観、各部屋の窓と木部表しとなった垂木がリズミカルに並びます。

木部が表しとなった軒先。木材保護塗料が施された杉の垂木と軒天が見える。木の軒裏は、翳(かげ)を生んで建物全体が落ち着いた佇まいになります。


中廊下から物干しスペースを見る。南面に増築した部屋から光が届いてほど良い明るさの空間となった。既存部分とは構造的に自立している増築部分を繋げる小梁と火打ち梁が表しとなって視覚的にもアクセントとなっている。

中廊下を反対側から見る。
天井の高さは2m55cm、既存建物の天井高さから少し下げて、各部屋へ緩やかにつがるようにした。床も工法の違いから既存部分とは段差を設けているが、それが気持ちの切り換えにもなっている。

6畳のフリースペース。杉の大梁が、表しとなっている。杉が張ってある天井は、高さ2m25cm。床は、ナラの無垢材にオイル仕上げ。壁は、紙クロスに粘土塗料の自然素材の仕上げ。造作材は、吉野杉。

6畳の子供部屋。窓側の天井半分は、屋根に合わせた勾配天井となっていて、天井の仕上げを壁と同じにして、窓から入った光が反射しやすくしてある。勾配天井の高さは、2m25cm~2m40cmとなっていて、杉板の平天井部分と合わせて、変化のある室内となっている。

子供部屋の造り付けの収納。大工の手による榀合板の造作家具。棚は、棚柱で可動できるようになっている。

天井と表しの大梁の詳細。天井は、天竜(静岡)産、大梁は、丹沢(神奈川)産、天井高さを見切っている造作材は、吉野(奈良)産、それぞれの特性を活かした杉の空間。こういったアンサンブルもデザインのひとつ。

杉の造作材、紙と粘土塗料の壁、ナラの床板、。自然素材の良いところは、光の受け止め方が柔らかいので目に優しいこと。写真では見えないが、断熱材はセルロースファイバーを使用している。この相乗効果で、部屋は建設中から嫌な臭いがしないので、空気が澄んでいると感じられる。また、セルロースファイバーは、調湿・防音の効果も高く、室内の快適性を増している。


玄関から既存建物の廊下方向を見る。新しい玄関は、既存建物の一部を改装して位置を変えて計画した。また、既存建物の廊下には造作収納が増設されて、以前より充実した収納計画となった。

新しい玄関の一部には、土間続きのクローク収納が設けられた。クローク収納には、玄関ホールからもアプローチできるようになっている。玄関ホールには、身支度が確かめることができるように、姿見の鏡が造りつけられている。

玄関の見返し。玄関框の両脇には手すりを設けた。ウォールナット材を八角形に加工して握りやすくしてある。落ち着いた雰囲気の玄関となった。

玄関ポーチからの眺め。玄関ポーチは、木部が表しになって木の家であることが表現されている。高さもほど良く抑えられていて、家に招かれる印象を持つことができる寸法になっている。

外部軒裏の詳細。杉の垂木、破風、軒天、広小舞がしっとりとした翳(かげ)を生む。シンプルな木の家の表現。軒裏には、杉板が一部カットされた換気口が見える。

敷地内の楓。紅葉がまぶしい季節にお引渡しをさせていただいた。