人に向き合い、ものづくりにいそしむ。


技術の進歩が時間との向き合い方を変化させることもあります。民家や町家の佇まいには情緒がありますが、快適とは言い難いのが現実です。しかし、高性能な断熱材、性能の高い窓や設備などは、人との親和性を減らすことなく、快適性を獲得することに貢献します。そして、デザインそのものも機能であり、装置であると考えています。空間のカタチが快適さを生み出すベースになるということです。単に陽射しや風を取り込むということだけではなく、熱や空気を動かすことはデザインでできるということです。住宅建築の巨匠・吉村順三の代表作である吉村山荘を見学した時、それを痛感しました。設備もデザインの中に取り込むということ、建築は全体であるということです。そして、人間そのものも普遍的な要素の一つだと思っています。技術や暮らし方が変わっても、人間の本質はそう変わりません。ヒューマンスケールであること、暑い寒いもそうですが、何を見たら美しいと感じるか、どうしたら心地よいと感じるかは、今も昔も基本的には同じだと思います。広々とした空間は気持ちがいいと感じる一方で、落ち着かないこともあります。視覚だけでなく、聴覚、触覚など、五感で感じる心地よさも大切な要素だと思います。


家業に戻る前は、建築家・椎名英三の事務所で図面を描いていました。椎名さんからはつねに“建築を愛しなさい”と教えられました。時代によって廃れてしまうのではいいデザインとはいえないわけで、あの家が建ってから、あの場所が良くなったね、そう言われるような住宅を建てたいものです。私たちの強みは、描くことと、つくることが一体であることです。しかも、描くことも、つくることも“手仕事”にこだわっています。弊社でもスタッフは、CAD※で図面を描いていますが、私は未だに手描きです。というか、手で描かないと描けないといったほうが正確かもしれません。指先と脳は直結していて、脳が感じたことがそのまま指先を動かします。むしろ、指先が動くことで脳のイメージが活性化するような気がします。図面を描く作業は、自分の中では彫刻を削る作業に似ています。カタチを理解するために削るという感覚です。自宅を建てるために描いた図面は数百枚にも及びました。私にとって図面を描くということは、お客さまに対するプレゼンのためだけではなく、何より“つくるために描く”ということなのです。


描くことと同様、つくることにも手間暇を掛けています。建築工事の重要な部分を担うのは大工ですが、私たちには設計者の方が大工より上とか、大工の方が他の職方より上とか、という考え方はありません。「お互いの職域を尊重し合って、それぞれがひとつの完成品(住まい)を目指す」というようにしています。大工は大工のしごとを、板金屋は板金のしごとを、左官屋は左官のしごとを責任を持って成し遂げていきます。その過程で、工事の全体や仕上る完成のかたちを良く理解しているのが、現場監督です。現場で働く職人たちに、完成のかたちを紐解きながら、「何故、こうしなければいけないか」を的確に説明することで、現場の精度はあがり、お互いの信頼関係も向上します。また、新しい試みがある際には、必ず職人の意見を聞きます。材料の特質を良く理解しているのは、毎日その素材に触れている職人だからです。そうした対話の中で生まれたディディールや表情は、とても深い味わいを持って表現され、「ただ、仕事をした」というものではなくなるわけです。こうした、経験豊かな職人の手業と、それを支える現場監督というチームとしてのしごとが、uchida建築アトリエの施工の基盤となっています。


私たちが、こだわるものに「価格」もあります。もともと、材木店としての母体がある私たちは、素材の良し悪しはもとより、市場で扱いやすい寸法や樹種や値段についての情報をたくさん持っています。そういった市場にある手に入れやすい、良質でリーズナブルな価格の木材を選択して使用することができます。また、住宅を数多く手掛けてきた経験から、建物の耐久性やメンテナンス性についても、数多くの知見を持ち合わせています。つまり、材料の特性や流通を良く知っている私たちが、「設計に工夫」を施すことで、建物に耐久性を持たせて、後々のメンテナンスのことも考えた、「美しい実用品としての住まい」を適正な価格でつくることが可能なのです。


かつてヨーロッパを訪れたときに目にした「街のアトリエ」に自分たちの姿を映しているところがあります。有名な世界的ブランドであろうが、街の小さなアトリエであろうが、そこには描く人とつくる人の対等な関係がありました。ヨーロッパではデザイナーと職人の関係に上も下もなく、互いを尊重し、信頼関係があり、良いものをつくるためのモノが言える関係が機能しているのです。私たちが“アトリエ”を名乗る意味がそこにあり、デザイナーと職人が一体となった家づくりが名前に込められているのです。上下関係をハッキリさせておくのは楽だし、効率がいいかもしれません。もちろん、生産性を上げることは大切なことですが、それが優先されてしまうと、手元に残るものが何もないのです。私自身、ものづくりをおこなううえで、感動することがとても大切だと思っています。感動は効率からはなかなか生まれず、対等な関係だからこそ生まれるものだと思うのです。設計事務所でもつくるだけの工務店でもない、家づくりのためのアトリエ。それが「uchida建築アトリエ」が目指す家づくりのスタイルなのです。